作/清水邦夫
楽屋を舞台に、演劇に生命を燃やす人々の生と死が、時を越え交差する。垣間見える人生の表と裏。人間の業や葛藤に滑稽さと哀れさが相交じり、生きる哀歓がにじむ。
日本で一番多く上演されている「楽屋」。表舞台と裏舞台の楽屋。光と影、表と裏、生と死の対比の中に消し去ることのできない情熱がほとばしり、新たな生命の鼓動が響きはじめる。
「楽屋」には、陽の当たる場所だけが人生ではなく、名誉や光栄とはほど遠いところにあっても「それでも生きていよう、 生きていきたい」と願う生命の輝きがあり、その輝きは万人に通じる大切なのものである。
ここは、チェーホフ作「かもめ」上演会場の楽屋。 念入りに化粧をする二人の女優。舞台袖から俳優に忘れた台詞を教えるプロンプターを長年努めてきた彼女たち。 実は、既にこの世の者ではない亡霊なのだ。一方、「かもめ」の主役ニーナのセリフを熱心に繰る主演女優は、楽屋に住み着く亡霊の存在を知るよしもなく、出番間際にあわてて舞台へ飛び出していく。
楽屋に残された二人は、生きて主役を務める女優への嫉妬も手伝ってか、断ち切れぬ芝居への思いがメラメラと燃え始める。シェークスピア作「マクベス」のマクベス夫人、三好十郎作「斬られの仙太」、チェーホフ作「かもめ」 のニーナなど、それぞれ憧れの役を演じ、毎夜のごとく永遠にやって来ない出番にそなえる。
と、そこへやって来たのは枕を抱えた正体不明の若い女優。彼女も芝居の虜なのか、舞台から聞こえてきた音楽に誘われて、ニーナのセリフを語り始めた。
主演女優が楽屋に戻って来ると、枕を抱え若い女優が現れる。ついこの間まで主演女優のプロンプターを務めていた彼女は、病気がすっかりよくなったので、ニーナ役を返せと主演女優に迫る。激怒した主演女優は、思わず若い女優を殴ってしまう。ふらふらと出て行く若い女優。
やり場のない苛立ちから、怒り狂う主演女優。その怒りは見えるはずのない二人の亡霊を襲う。逃げ惑う亡霊たち。過去のさまざまな思いから、華やかな舞台とは裏腹に悲哀に充ちた女優たちの姿が見え隠れする。
主演女優が去った後、再び現れた若い女優。どうやら彼女には二人の亡霊が見えるらしい。打ちどころが悪かったのか、若い女優も亡霊となったのだ。
三人となった亡霊たちは、何かの拍子にやって来るかもしれない出番のために、この楽屋で稽古を始める。 作品は、チェーホフの「三人姉妹」!!
・・・・・「わたしたちだけがここに残って、 またわたしたちの生活を始めるのだわ。生きていかなければ、・・・生きていかなければ・・・」
2012/05/25-27 | 劇団道化座IWAYAスタジオ | 写真集 |
2013/09/21 | 兵庫県立芸術文化センター | |
2013/11/01 | 韓国 Museum Theatre | 第5次訪韓公演 |