作/渡辺鶴
劇団道化座二人芝居
アメリカに3年出張しっぱなしの息子。残された嫁あき子と父杢太郎との二人暮らし。平凡な日常から始まり、二人の軽妙洒脱なやりとりの内に、不在の息子へのそれぞれの思いが交差。老いていく義父杢太郎を見守る嫁あき子。そして、義父は逝き、嫁は見送る。「老い」を明るくカラッと描き出し、穏やかで平和な春から、エネルギーに充ちた夏、深く心落ち着く秋、季節は厳しい冬へと流れ、そこはかとない可笑しさの内に、やがて舞台にく人生の四季>が見えてきます。そして、また春がめぐり、新たな旅立ちが始まります。
「幸福」は中国、韓国、マレーシアでも上演、各国で熱い喝采を頂戴した作品です。変貌する現代、人が生きていく上での”幸福”とは何か? 理屈ではなく平易に万人に理解してほしいと願いを込め、座付き作家渡辺鶴が書き下ろしました。身近な暮らしをベースに、心の機微に触れ、優しく心和む作品に仕上げ、今を生き抜く明日へのエネルギーになればと願っています。(公演パンフレットより)
【春】杢太郎は、妻と死別して35年。 息子太郎はアメリカへ単身赴任で3年目。嫁のあき子と二人暮らし。「嫁と舅」世間のあらぬ噂をさらりと流し、ひょうきんに加えナンセンスの腕を磨いている。あき子も持ち前の明るさで、義父に尽くすことで夫太郎への想いを果たしている。
【夏】突如、嫁と舅の大喧嘩。入れ歯の不始末からエスカレート。「実家に帰る」「さあ殺せ!」の大騒動。と思いきや、これは世間を欺く大ウソの陽動作戦だ。「明日からもっと頑張ります」 若いあき子の明るさは、杢太郎には老いを感じる華やかさだった。
【秋】夜半。救急車が走り去る。杢太郎の精神の軸がはずれた。「老人性認知症」。彼の脳裏に浮かぶのは、亡妻花子のこと、息子太郎のこと。しかし、あき子の必死の看護で、やっと正気を取り戻す杢太郎。
【冬】「あき子さん、あなたの笑顔は私の宝物だ。あなたは実にいい嫁でした。本当に有り難う」と感謝を述べ、あき子の腕の中で息を引き取る。
【そして春】あき子は夫太郎と別れ、人生をやり直す旅に発つ。朝露の花畑に立っている杢太郎。「お父さん、行ってきます」笑顔で見送る杢太郎。春の空はどこまでも高く、どこまでも明るく、あき子の新しい門出を祝福している。